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毎日何気なく履いている靴。足と合わないまま履いていると、骨格や骨盤にゆがみを発生させてしまうことをご存知だろうか。「歩行アドバイザー」として、足元からの総合的な健康づくりを推進している人がいる。大切な足と靴との関係を改めて考えてみたい。


 私は歩行アドバイザーとしての活動を始めて3年になる。「歩く」という行為を皆さんはどう考えているだろうか。私は靴学的に見た人間工学の研究をしてきたが、「歩く」と言う動作は身体をつかさどる骨格を支える筋肉を脳が動かすのだと認識している。文明が発達し、現在は移動をするにも楽な時代になったが、その半面、筋力の低下など人体への悪影響が懸念されている。



昭和35年3月生まれ。
平成2年12月、有限会社エーリーズを創業。
歩行アドバイザーとして、足元からの健康づくり推進を行っている。


三浦 亨
(Kou miura)

 靴工房 有限会社エーリーズ
代表取締役

靴工房 エーリーズ
http://www12.plala.or.jp/a-ries/
 
 ウォーキングは、近年、手軽にできるエクササイズとして頻繁に紹介され、実際にされている方も多い。しかし、ウォーキングは正しい骨格で行わなければバランスの取れた筋肉がつかない上に、脳にストレスを与えるなど逆効果を産んでしまうのである。

 私は長年、アルペンスキーを行ってきた。勝つためには斜面に合わせてスキー靴の中の角度調整をする必要がある。そのような物を長年履いていたため、自分の足の骨格や筋肉、関節までがゆがんでしまっていることに気がついた。自分の足に合う革靴がなくて困ったほどである。このことがきっかけとなり、研究を始め、18年前から靴を造っている。

 いくら高価なオーダーメイドの靴を造っても、初めから100%満足のいく靴はできあがらない。靴は足そのままの寸法に「捨て寸」「ころし」という靴独特の寸法が採られ、靴型にしてから造るために必ず圧迫感が出るのである。皆さんは靴選びにおいて何に重点をおいているだろうか。やはり、一番にデザインであろう。靴はファッションの一部として考えられるが、自分の立ち姿は鏡で見ることができても、歩く姿を見ることはほとんどない。立ち姿はとても美しくても、歩き出したら不格好、美しいスタイルだと言えるものではないのだ。自分がどのような格好で歩いているのかを家族や友人とチェックしてほしい。今、若い女性たちの歩行がどうなっているかを検証しよう。ファッション重視の世の中、細い爪先、高いヒール、近年流行のミュールなどおしゃれ履きをこぞって買い求める。圧迫感、痛みを我慢し、なんとか立っている状態の人をよく見かける。試し履きをしてきつい、痛いと感じれば1サイズから2サイズ大きいものを選び、さらに、合うサイズの物の在庫がないと分かればきつい物で我慢することを考える。店員も商品を売りたいがために「そのうち足に馴染んでくる」、「履いていれば慣れる」を連呼する。サイズが合わない靴を履いてまともな歩行などできるだろうか。若いから大丈夫だと思っている人が大半であろうが、身体の土台である足元が不安定になることで人間の骨格は簡単にゆがんでしまう。骨格を支え動かす筋肉も常に張り、柔軟性を失ってしまう。


 健康的に歩いている女性があまりに少な過ぎる。たとえば、内股歩きを続ければ、骨盤の前方変位が起こり下腹が前に出るし、お尻が後ろに突き出る。こうして、プロポーション重視の年代はダイエット、エステと騒ぎ出す。こうした一連の連鎖が起こるのである。また、骨盤がゆがめば、骨盤内にある臓器にも影響が出る。生理痛がひどくなり生理不順が起こる。不妊に悩み、子どもを授かっても難産で苦しむ。他に便秘で悩む人も多く、さまざまな体調不良がでてくる。「若いから大丈夫」という言い訳はもはや通用せず、20年、30年後には、足首、膝、腰など全身にゆがみが生じ、痛みと闘う日々を送ることとなるのだ。

 こんな事例がある。67歳女性。30年前から右足の親指が曲がり始め、足の付け根に痛みが出た。その後、左足の親指にも同じ症状が発症。しばらくは我慢ができていたが、歩くことが苦痛になり動くことが少なくなった。痛みを我慢しながら、仕事や家事をこなしていたが、右足膝、左股関節、左腰部と次々と痛みが出て、しまいには起き上がることすらできない状態になってしまった。医師に相談したが「老化による変形性膝関節症」と一言で片付けられてしまったそうである。ブロック注射、電気照射、水中歩行など、15年の長い年月をかけ治療を続けたが快方に向かうことはなかった。手術で膝関節に人工骨を入れると治ると言われたが、この治療も先延ばしにされていたらしい。来店時に「わらにもすがる思いだ」と言われ、1足の靴を購入していただき、中敷きの調整を行うこととなった。

 カウンセリング、歩行観察、足の骨格ポイントのチェック、足元から頭蓋骨まで10数ヵ所についてどのような状態かを把握し、中敷きを製作、足元の骨格アーチを補正する。後はこの靴を履いて歩いてもらうだけだ。その結果、この女性はたった1日で右足拇指球のポイントが2_踵側に移動し、左右のポイントが1週間で同じになり安定した。後日、「長年取れなかった全身の痛みが嘘のように消えた」と駆け足で来店、その後も快適に歩くことを楽しんでいただいている。

 一人ひとりの姿形は違い、立ち方歩き方も違う。O脚もいれば、X脚もいる、XO脚の女性が多く存在している事を皆さんは知っているであろうか。
 医療技術の発達により、高齢化社会が進んでいる。私は靴に携わり、ある目標となる事を見出した。「生涯自律歩行ができ、他人の世話を受けず生涯を全うする」ことができれば人生幸せだったと思えると私は考える。車社会が確立し、道路環境は整備されよくなってきているが、はたして人間が歩く場所は快適なのであろうか。硬くて傾斜だらけで、歩くだけで身体がゆがんでしまう場所だらけである。そのため、子供たちの足元もかなりゆがみが進行している。

 日本人は靴の履き方について教育されていない。教育されていない大人が子供に教えることなどできないのである。脱ぎ履きの仕方やひもの結び方は歩くために必要不可欠なことである。スポーツを盛んに行わせているが、靴ひもをしっかり結ばずに運動すれば当然ケガも多くなる。家庭や学校、スポーツの指導者の方々には子供たちをよく観察していただきたい。

 中敷きを使い靴内の環境を整えることで多くの改善効果が見られる。骨格バランスの補正、病気やケガ等のリハビリ、美容、労働、スポーツ、舞踏、音楽、学習、その他特殊な状況にある人、靴を履いて行うすべての行動と言っても過言ではない。

 現にケガ等により歩く事ができない人を、靴を使い歩かせることを何度もやってきた。中には、重傷のうつ状態に陥った方が自殺を思いとどまったケースもある。私自身、靴に助けてもらっている実状であり、靴に対してこう取り組み接している。
 「靴は、履く人の生き方や、心の在り方を変える物である」と。


【出典:「Future SIGHT29号」(Summer 2005発行)】


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