やまがた辻蕎麦 のすべての投稿

2019年11月~12月 辻蕎麦便り

霜月。
季節は巡る。
地球温暖化で年ごとに異常気象が異常気象でないような気がしてきています。
それでも時はしっかり刻んでおり、ことしも降雪のシーズンを迎えました。
山形や天童などでは今月末になって、早朝の庭先や家々の屋根に白いものが目立つようになってきました。
蔵王連峰をはじめ朝日連峰、月山などで出羽三山も真っ白な頂がまぶしく感じられます。

 外の景色が白一色になる日も近いのですが、そんな中でほっこりさせてくれるのが干し柿です。
昔ほど多くはありませんが、軒先に縄のれんのように暖かそうな柿色が連なっているのを眼にすると幼心に帰るような気がしてなりません。
以前にもここで触れたことがありますが、剪定どころか収穫もしない「荒れた柿の木」が随分目立つようなってきました。
手間暇かけて干し柿を作るより、ケーキを買ってきた方が簡単で美味しいものを口にできる、といったこともあるのでしょうが、やはり超高齢化社会が色濃く反映しているようです。
所有者が高齢で樹木の手入れができなくなり、伸び放題に伸び、収穫もままならなくなってしまったというところでしょう。
日本の原風景のひとつともいえる干し柿の縄のれんが産地以外では姿を消すかもしれません。
ちょっと寂しい気がします。
もっとも幼い時からそのような光景を目にしたことのない人々にとってはぴんとこないかもしれませんが。

 異常気象といえば、今月わがささやかな菜園で珍事が相次いで起こりました。
恐らく掘り残したと思われるジャガイモが葉物野菜の畝で数本芽を出し、どんどん成長したのです。
最初は「なんで今ごろ」と首を傾げましたが、邪魔にならないので放っておきました。
当然のことながら追肥や土寄せといった普通のジャガイモ栽培のようなことは一切やりません。
最低気温がマイナスに突入する寸前に、このままでは枯れるだけだからと引き抜いてみました。
なんとピンポン玉を一回り大きくした「新ジャガ」が数個出てきました。
山形盆地では4月中旬から5月頃に種芋を植えて、7、8月に収穫するのが一般的です。
まさか11月下旬に「新ジャガ」を収穫できるなんて。
せっかくなので蒸していただきましたが、ほくほく感があり、味は凝縮されて濃厚でした。

 秋になって芽が出たのはジャガイモだけでなく、トマトもあちこちに出てきて茎を伸ばしていました。
こちらはさすがに花を咲かせたり実をつけるまでにはいきませんでしたが。
花を咲かせたのはサヤエンドウ。
白い花を次々に開かせ、楽しませてくれました。
もっとも最低気温が急激に下がり、月末までにはいずれも自然の摂理に戻ってしまいましたが。
来年以降もこうしたことがあるなら、ちょっとやってみたいことも出てきています。
菜園の野菜たちは異常気象でいろいろ傷めつけられましたが、楽しみも残してくれたようです。

 いよいよ師走。
辻蕎麦の工房では、新たな年に向かい幸多かれと期待と希望を込めてお召し上がりになる最高の年越しそばをお届けするため精魂込めて作業を続けております。

<2019年11月30日>

2019年10月~11月 辻蕎麦便り

神無月。

「山形県と秋田県にまたがる鳥海山できょう初冠雪が観測されました」。
テレビやラジオで28日こんなニュースが流れました。
「えっ、まだだったの」といぶかる気持ちで耳を傾けていたら、平年に比べて18日も遅いということです。
やはりと納得した瞬間、40年ほど前の10月10日を思い出しました。
当時鳥海山の近くに住んでおり、休日だったこの日鳥海登山を計画していたのです。
きれいに晴れ渡った青空の下、早朝から登り始め、7合目にあるカルデラの鳥海湖近くまでたどり着いた時、わが目を疑う光景に出合いました。
一面の草紅葉の上に白い粉砂糖を薄く振りかけたように、雪がふわーっとのっているのです。
口でふっと吹けば、飛んで行くのではないかという感じでした。
雪国生まれの雪国育ちですが、こんなきれいな雪景色は初めてです。
夢の世界に迷い込んだのでは、と思ったのも束の間、歩みを止めた瞬間に汗でびっしょりの体を凄まじい冷気が襲ってきました。
慌てて素っ裸になり下着を取り替えました。
幸いにも周囲に人影は全くありませんでした。

 それにしても18日も初冠雪が遅れるなんて。
これも地球温暖化というか、異常気象の影響なのでしょうか。
異常気象といえば、台風19号。
被災者の皆様には心からお見舞い申し上げます。
実は山形市や天童市などがある山形盆地は自然災害の少ないところで、深刻な台風被害もめったにありません。
ところが今回の台風は、山形盆地の一部で建物損壊や農作物への被害をもたらしました。
ささやかなわが菜園でも野菜の多くが見事になぎ倒されました。
こんなことはあまり記憶にありません。
自家用だし、完全にダメになったわけではありませんが、専業農家の方たちは本当に大変でしょう。

 異常気象といいながらも季節は移ろって、ことしも新そばの時季を迎えました。
ソバの栽培面積が北海道に次いで2位の山形県。
週末にはあちこちで新そば祭りが開かれ、さまざまなイベントを繰り広げ多くの人でにぎわっています。
イベントといえば、県内にはそばにまつわるギネス記録があるのです。
1998年に村山市の「村山蕎麦の会」が、山形そばの代名詞でもある板そばで企画。
長さ約90㍍の板の上に新そばを盛り、約600人が一斉に食べるというものでした。
圧巻だったでしょうね。
そばを打ち、茹でる人たちのことを考えたらその大変さがしのばれますが。
この催しは規模を縮小し、毎年行われているようです。

 わが工房でも、新そば特有の馥郁たる香りに包まれながら、作業に励んでおります。
それぞれの蕎麦粉が持つ特長を最大限引き出し、美味しいお蕎麦をお届けできるよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。