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2021年6月~7月 辻蕎麦便り

青空に沸き立つ入道雲を見ていたら、ふと「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」ということわざが浮かんできました。
ひところせっせと山通いをしていた時期がありました。
汗だくになりながら登山道を進んでいくと、あちこちに点在する白い可憐なヤマユリが真っ青な夏空の中で風に揺れる姿に思わず元気をもらったのを思い出します。
「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」というのは、美人を表現する言葉だと思っていましたが、茎の先端に花をつける芍薬は立って、横向きの枝に花を咲かせる牡丹は座った位置で、風に揺れる姿が素敵な百合は歩きながら、それぞれ観るのが一番美しいという意味もあるんだそうですね。
言われて見れば確かにそんな感じがします。

約7ヘクタール、東京ドーム4個分の広大な面積に50万本以上のさまざまな品種を植えているゆり園のユリが見ごろを迎えたと新聞に載っていました。
山形県の南部、飯豊町にある「どんでん平ゆり園」。
ユリの花を扱っている施設としては東日本最大級ということです。
40年ほど前に地元の有志が山の斜面を公園として整備したのがきっかけで、次第に面積を拡大し、ここまでの規模になりました。
10数年前までは何回か足を運んだことがありますが、そのころとは比べ物にならないくらいグレードアップしているようです。
白だけでなく色とりどりのユリが夏空をバックに風に揺れる光景はきっと素敵でしょうね。

霜により大打撃をこうむった山形県のサクランボですが、それに追い打ちをかけるような出来事が相次いでいます。
県産サクランボは全国の生産量の約70%に上ります。
霜の被害で収量は平年の30%減と見込まれ、農家にとっては非常に厳しいシーズンとなりました。
消費者のことを考えると極力値上げはしたくないと頑張ったようですが、20%程度アップしているようです。

今シーズン目立つのがサクランボ盗難。
ここ数年、ほとんど鳴りを潜めていましたが、品薄に目を付けたのでしょうか、今月25日までに6件も発生しています。
盗まれたのは合計225㌔で、約125万円相当ということです。
犯人の目的は当然販売でしょう。
しかし商品にするためのサクランボの摘み取りは素人が簡単にできるものではありません。
しかも夜間の暗闇の中で。
作り手の経験が無かったら難しいのではないかと考えた時、丹精込めて育て上げ収穫目前で持ち去られた農家の気持ちが分からないのかと余計腹立たしくなります。
許せません。
…それに“盗人”は人間だけではなかったのです。
なんと熊による被害が4件も発生。
19㌔、9万4千円相当が被害に遭っています。
熊も生きるためには必死なのでしょうが、人間だってそう簡単に口にできないものだけになんとも…

(辻蕎麦 2021/06/29)

2021年5月~6月 辻蕎麦便り

 皐月。
月末になって衝撃的なニュースが入ってきました。
今シーズンのサクランボの収穫量が平年より30%以上も下回り、予想収穫量の公表を行って以来最低になりそうだというのです。
山形県は全国の生産量の約70%を占める「サクランボ王国」。
この減収がもたらす影響は少なくないでしょう。

 今シーズンは冬期間の大雪による枝折れやハウス倒壊などによる被害が懸念されましたが、それに追い打ちをかけたのが4月の霜害などです。
サクランボの開花は長年ゴールデンウイークの始まるころでしたが、ここ数年、桜の開花を追いかけるように早まってきていました。
以前より2週間前後前倒しになり、霜の被害を受けやすくなったのではないでしょうか。
先月は風雨も結構強く、それによっても雌しべが痛めつけられたようです。

 県やJAなどで組織する県さくらんぼ作柄調査委員会によりますと、今シーズンの県産サクランボの予想収穫量は平年比32%減の9500㌧ということです。
予想収穫量がこうして公表されるようになってから25年ほどになりますが、1万トンを下回ったのは初めてです。
ここ10年ほどの収穫量をみますと、ほぼ1万3千㌧から1万5千㌧の間で推移しております。
ちなみに昨年は1万3千㌧でした。
サクランボ農家は着果管理を徹底し、幾らかでも収量を上げようと懸命に作業を行っているということです。
初夏の味覚を楽しみにしている人々も多いだけに、1粒でも多く消費者に届くよう願っています。

 新緑が日一日と濃さを増す季節になりました。
「五月雨をあつめて早し最上川」。
俳句なんて無縁だよという人でもこれくらいはご存知でしょう。
もとの句は「五月雨を集めて涼し最上川」。
松尾芭蕉が奥の細道の旅中、最上川中流にある流域最大の船着き場・大石田で開かれた句会で作ったのが旧暦の5月29日でした。
暦的には新暦より1カ月近く後ということになりますが、地球温暖化の影響を考えれば、芭蕉が目にした新緑や五月雨を集めた最上川の河面の光景は今頃の時期とさして変わりないのではないでしょうか。

 最上川は富士川、球磨川と並ぶ三大急流のひとつ。
中流まではそれほどでもないのですが、庄内平野近くの下流になりますと見掛けのゆったりした大河の趣とは違い、中央部の流れはかなりの速さです。
随分前になりますが廃止寸前の渡し舟に乗せてもらった際、離岸してほどなくあまりの水圧の強さに「おい、おい、大丈夫かよ」と思わず船頭さんに声を掛けそうになりました。
川沿いに国道48号線やJR陸羽西線が走り山あいの空間が広がっている現代と違い、「おくのほそ道」で芭蕉は「左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。(略)水みなぎって舟あやうし」と記しています。
五月雨で膨れ上がる河面を目にし、中流で感じた「涼し」などという風流を押しのけるような恐怖感を覚え、「早し」に改めたのではないでしょうか。
(辻蕎麦 2021/05/28)