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2023年 12月号 辻蕎麦便り

師走。
「今年も大変お世話になりました。来年こそ新型コロナウイルス禍が治まり平穏な日常が戻ることを強く願っております。どうか良いお年をお迎えください」。
これは昨年の12月号に書いたものです。
来年こそは本当に他の文章で締めたい、と心から念願しております。

この一文を書いてから1年たちます。
新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、毎年暮れに同じようなものを書いてきました。
しかし今年に入り感染が沈静化。
祭りやイベントなどが復活し、各地で以前のような賑わいを取り戻しました。
目に見えない恐怖におびえ、閉塞感に満ちた日々から解き放たれ、本当に嬉しい限りです。

ようやく明るい兆しが見えてきたのに、またちょっと悲観的な話で恐縮ですが、最近やたら「沸騰する地球」という言葉を目にするようになりました。
どうやら「地球の温暖化」という表現では生温い状況になってきたと研究者たちは考えているようです。
夏から一気に初冬に移ったような今年の秋を振り返れば、「異変」を強く感じざるを得ません。

山形市周辺では寒気団が南下した今月21日から23日にかけて3日間連続して平均気温がマイナスを記録したものの、それ以降は年末とは思えない景色が広がっています。
街だけでなく周辺の田畑にも雪は全くなく、青空が広がる日などは南国に迷い込んだのではないかと錯覚するほどです。
ちょっと郊外に出ると、放置された柿の高木が鮮やかに色づいた実をびっしりつけているのをあちこちで見かけます。
例年なら既に熟して落下するか、鳥に啄ばまれたりしてこの時期に柿を目にすることはありません。
裸木の上に雪が積もっているくらいです。
果樹農家の人と話していたら、詳しくは分からないが、気温が高いので熟すのが遅いようだということでした。
熟さなければ落下しないし、渋柿ではさすがの鳥も手を、いや嘴を出す気になれないでしょう。

植物は自ら移動できないだけに、変化するのが遅いようですが、海は早々に異変を示していました。
海水温の上昇に伴い日本列島全体で魚種交替がかなり激しく行われているようです。
東北の太平洋、日本海でも目の前の海で獲れていた魚たちが姿を消し、それまで考えられないような暖かい地域の魚種が数多く水揚げされているということです。
宮城や福島沖ではトラフグが豊漁で、ブランド化の動きがあるとか。
フグと言えば下関や九州周辺というイメージが強かったのですが。

あるテレビ番組で地球環境専攻の大学教授が
「気温が1度上がるのは大変なことなのです、と言っても多くの人はピンときません。でも日本人の体温が36.5℃から1℃上がって37.5℃になったらどう思いますか。地球は大きいから人間以上に大変さが増すのです。大切なのは今ならまだ上昇を止められるということです」
と説明していました。
たかが1℃と思っていましたが、とてつもなく重要な1℃のようです。
後に続く世代のためにいかに「地球の沸騰」を食い止めるか。
まさに正念場を迎えているようです。

今年1年、大変お世話になりました。
来年はさらに美味しいお蕎麦をお届けできますようさらに精進を重ねて参りますので、よろしくお願い申し上げます。
(2023/12/27 辻蕎麦)

2023年 10月~11月号 辻蕎麦便り

「畑のない柿農家が…」。
ラジオから流れてきた話に「えっ、どういう意味?」。
農地がないのに、どうやって柿を栽培するの、と首をかしげながら聴き入りました。
中国地方から秋田県に移住した男性が、多くの放置されている柿の木に着目。
熟した後にただ落下させるのはもったいない、収穫してドライフルーツなどに加工すれば有効活用できるのではないかと、所有者と交渉し実現にこぎつけたという話でした。

放置されている柿の木は全国的に年々増えているのではないでしょうか。
山形でも郊外をドライブしていると、伸び放題の枝に鈴生り状態に実をつけた柿の木がやたら目につきます。
伸び放題ということは剪定をしていない証で、せっかく実った柿も鳥のエサになるか、はたまた落下してしまうしかありません。
山裾に近い集落などでは、それこそ熊を招き寄せる格好のエサになってしまいます。
この男性のような活用法が広まればと期待しています。

熊といえば、その目撃情報や人的被害がかつてない数にのぼっています。
7月に東北森林管理局が行ったブナの開花状況調査を取り上げました。
東北各地のブナの実が凶作という予報が出され、それを主な食料にしている熊の動向が気になると書きました。
気温がやや下がり始めたころから人里へ出没する熊の数は尋常でありません。

連日のように目撃情報が新聞やテレビなどのニュースになっていますが、ことしの特徴はなんといっても人的被害の多さです。
数年前まで目撃されるのは林道沿いや山裾の果樹畑などでしたが、今や住宅街のど真ん中というのも珍しくありません。
熊に襲われてケガをした人は全国で170人を超しており、すでに過去最多を更新しています。
まさかこんなところにいるわけはないという住宅地で、突然目の前に現れたら驚きと恐怖は言葉にならないでしょう。
山中のエサ不足は果たして今年だけのものなのか、それとも異常気象とのかかわりでこの先も続くのか気になるところです。

高温、少雨に痛めつけられたわが家の菜園の今年の作業も終わりに近づいています。
かつて経験したことのない現象が次々に出現し、戸惑いの連続でした。
気温が高すぎて野菜の生育がストップすることは、文字の上では知っていましたが、まさか現実になるとは。
収穫サイズに至らずそのまま枯れてしまうもの、気温が下がった9月下旬ころから急に息を吹き返し急成長を遂げるものなど様々です。
山形ではなく、南国の遠い見知らぬ土地で野菜作りをしているような気がしました。
熊のエサ同様に、こちらもこの先どうなるんでしょうね。
(2023/10/30)