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2019年1月~2月 辻蕎麦便り

睦月。

明けましておめでとうございます。

気象庁の今冬の長期予報では、全国的に暖冬だが、北日本は平年並みということでした。
いつもの寒い冬を覚悟していましたが、意外にも山形市や天童市などはやや暖冬の傾向にあるようです。

最高気温もマイナスになる日を真冬日といいます。
1日中、冷凍庫内にいるような感じですね。
昨年は12月末から1月にかけて8日間もありました。
こうした中で雪が降ると、降った分だけ積もってしまい、簡単に融けません。
足腰の痛みに耐えながら除排雪作業に汗を流す日々が続くことになります。
ところが今年は12月末も含めて真冬日が3日間だけ。
降っては解けるの繰り返しで、積もってもそれほどの高さになりません。
間もなく立春。
晴れ間から射す日の光もピーンと張りつめたような感じから、徐々に柔らかいものに変わってきているようです。

冬の山形の名物といえばその筆頭は蔵王の「樹氷」でしょう。
地蔵岳山頂付近の斜面に広がるアオモリトドマツ。
シベリアからの季節風が日本海から上昇する水蒸気で大量の雪雲をつくりだし、朝日連峰を超え、蔵王の山並みにやってきます。
雪雲の中の雲の粒がアオモリトドマツの枝や葉に付着して凍り、それらが次第に肥大し、さらに雪そのものもがっちり張り付き、巨大な白いモンスターに成長します。
1月末から2月にかけてが、最も大きく育つ時期。
国内外の多くの観光客でにぎわいます。
真っ青な空をバックにそそり立つ姿をながめていると、地球とは違う惑星に来たような気持ちにさえなってきます。

ところがそんなモンスターが危機に瀕しております。
キクイムシや蛾の幼虫などによるアオモリトドマツへの食害が4、5年前から深刻化し、次々に立ち枯れ状態になっているのです。
現場は自然公園法の特別保護区で、伐採や植林などができません。
極めて大きな観光資源だけに関係者は懸念を募らせてきました。
東北森林管理局もこのまま手をこまねいてはおられないと対策を検討。
同じ特別保護区の標高の低いところに自生する幼木を高い場所に移すのは可能ということで、雪解けを待って作業を始めるようです。
標高1500㍍を超すようなところでの植え替えだけにいろいろな困難がつきまとうのは必至でしょう。
しかし冬の山形を代表する「樹氷」だけに、その姿を消すことがないよう成功を願ってやみません。

辻蕎麦の作り手一同、より美味しい蕎麦をお届けしようと気持ちを新たにしております。
今年も宜しくお願い申し上げます。

2018年11月~12月 辻蕎麦便り

霜月。

「150年ぶりの一般公開」。
この言葉だけでなにやらすごいのではないかと思い、今月上旬、紅葉見物がてら羽黒山の国宝五重塔に行ってきました。
なんせ生きているうちに拝観できる最初で最後のチャンスかも知れませんし。

山形県の中央に連なる出羽三山。
月山、羽黒山、湯殿山は古くから山岳修験の場として、全国にその名を知られています。
江戸時代には関東などから白装束をまとった信者が列をなし、山頂を目指す様子は一本の白い糸のようだったといわれています。

五重塔で東北唯一の国宝は羽黒山中に樹齢350年から600年の杉並木とともに静かにたたずんでいます。
高さは29.4㍍。
三間五層の素木造りで、屋根は杮葺き。
建立された時期は明確でなく、慶長13年(1608年)に山形城主最上義光によって大修復が行われましたが、その時の棟札に「承平年中(931年~938年)平将門」と書いてあったといいます。
ただ現在の五重塔は建築様式を見る限り約600年前の室町時代のものではないかということです。

この五重塔は明治初年の神仏分離令が発せられて以降、「秘中の秘」とされ内部が人々の目に触れることはありませんでした。
ことし出羽三山神社(月山、羽黒山、湯殿山の各神社)の三神合祭殿再建200年を記念し4月末から今月4日まで一般公開されたのです。

参道入り口近くの駐車場に入ってびっくり。
50台以上停まっている車のナンバーが大阪、名古屋、富山、品川、仙台など県外、しかも遠隔地のものがやたら目立ちます。
なんと「山形ナンバー」はわが家の1台だけ。
一般公開への関心の高さは全国区だったのですね。
地元にいながら気付いたのは10月下旬でした。
「う~ん、灯台下暗し」。

五重塔前の臨時受付で入場料を払ったら山伏がお祓いをしてくれました。
1階から5階まで階段を昇って行くことができるのかと思ったら、全く違っていました。
入れるのは1階だけで、2階以上は吹き抜け状態になっているのです。
大修復でどの程度部材を差し替えたか分かりませんが、内部は600年の時を刻んだとは感じられないほど痛みが少ないのです。
それは塔の脇に設けられた仮設のスペースに寝転がって2階の窓から半身を中に入れ、上をのぞいた時も同じでした。
八角形の芯柱はちょうな削りの跡が生々しく、数年前に加工したといわれても信じてしまうほどの肌をしております。
案内の女性によれば、塔の内部は風通しが良く、しかも光がほとんど差し込まないので木材の劣化が極めて少ないのだとか。
また木材と木材の結束材は藤つるを使っておりますが、乾けば乾くほど締まるということです。
それだけきつく縛ることになります。
奈良や京都の寺社仏閣でもそうですが、随所に光る先人の知恵と工夫には本当に頭が下がります。

再び扉を閉ざした五重塔。
今ごろ周囲は白い世界に覆われていることでしょう。

いよいよ師走。
辻蕎麦の工房では年越し蕎麦づくりに追われる日々が続きます。
新たな年に向かい期待と希望を込めてお召し上がりになるお客様のご要望におこたえすべく
精魂込めて打ち上げます。