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2018年4月~5月 辻蕎麦便り

卯月。

 ジェットコースターのように乱高下する気温。夏になったり早春になったり。人間も対応するのに苦労しているが、動くに動けない植物などはさぞかし戸惑っていることでしょう。
 とはいえ季節は確実に移ろっています。山形では今月上旬に開花宣言がなされました。その後、桜前線はあるときは早足で、ある時は立ち止まりながら北上。それを追うようにさまざまな木々が一斉に芽吹き始めました。
 以前にも紹介しましたが、北国の春は本当に慌ただしいのです。首都圏などのように梅が咲いて、次に桜が咲いてなどと順番に開花していくわけではありません。梅、桃、桜、それに果樹王国にふさわしくいろいろな果樹がわれ先にと一斉に開花します。地域によっては全域がピンクや白に染められているようなところも。
 青空と真っ白な雪山を背景にそうした光景をながめていると、「桃源郷」とはこういうのを表した言葉かもしれないと思い浮かべてしまいます。

 先日、菜園を見回っていて、「えっ、こんなに早く」とびっくりしました。数本のアスパラが地中からひょっこり顔をのぞかせていたのです。ハウスならともかく、4月に露地でお目にかかった覚えはありません。
 夏日が3日ほど続いた後だったので地温が上がり、「もうおれの出番か」と粗忽なアスパラが慌てて出てきたのかもしれません。
 もっとも顔を出したまでは良かったのですが、その後一転して春の入り口のような低温に。おまけにそぼ降る冷たい雨。とても我慢できないと寒さのあまり幾分土の中に顔をうずめてしまったのではないかという気さえしました。
 もちろん錯覚ではありますが。他の野菜たちもどうすればよいのか右往左往しているのかもしれません。

 生命の神秘というか、生命の力強さを感じさせてくれるできごとがありました。
 ややオーバーな表現になってしまいましたが、南国の果物パッションフルーツの苗がこの山形で冬を越し、葉をつけ蔓を伸ばし始めたのです。
 昨年、グリーンカーテン用に2本の苗を入手。2つの大きな鉢に植えたところ2階まで蔓が伸び、しっかり役目は果たしてくれました。
 しかし問題はどう越冬させるか。外に置くわけにはいかず、蔓を50㌢ほど残してバッサリ切り、根もコンパクトにして小さな1つの鉢に植え替え、自宅廊下の隅に移動。
 青々とした数十枚の葉はいくら家の中といっても外気温がマイナス10度を下回ったころに一斉に落ちてしまい、蔓は丸裸に。やはり無理だったか、とあきらめていました。
 ところが3月末ころから次第に芽吹き始め、4月に入って葉が大きくなるにつれ蔓も伸び出したのです。
 信じられないものを目にした感じでした。まさにミラクル。
何事も簡単にあきらめちゃいかんのですね。

2018年3月~4月 辻蕎麦便り

弥生。

北国山形にもようやく春の足音が聞こえてまいりました。
今年の冬は近年になく厳しく長かったように感じます。

気象庁のデータベースに「積雪の深さ一覧表」という項目があります。
都道府県の主な観測地点の積雪量が分かるようになっており、1時間ごとに更新されます。
山形県内の観測地点は14。
首都圏などの方は驚かれるかもしれませんが、3月25日現在でまだ8地点で積雪を観測しているのです。
わが国有数の豪雪地帯で知られる大蔵村肘折の255㌢、西川町大井沢の177㌢はともかく、米沢市でも13㌢、尾花沢市70㌢などとなっています。
山形市や天童市などは10日ころには消えていましたが。
今シーズンは降った雪も多かったのですが、気温がいつもより低かったのが積雪量の多さにつながったような気がします。
降り積もっては消え、降り積もっては消えすれば積雪量はさほどでありません。
しかし気温が低く、降った雪が融けなければ、そのまま積み増していくだけです。
この気温の低さはやはり異常気象のなせる技でしょうか。

3月は別れと旅立ちの時といわれます。
これは人に限った話ではありません。
山形県は最上川を中心に1万羽をゆうに超える全国トップクラスの白鳥の飛来地。
白鳥たちは雪解けと歩調を合わせるように北帰行への準備を始めます。
張りつめた白一色の世界が緩みだし、田んぼの稲の切株などが顔をのぞかせると、白鳥たちは最上川などのベースキャンプからせっせと通い始めます。
長旅には当然のことながら膨大なエネルギーが必要。
収穫時にこぼれ落ちた稲穂などを懸命に啄みながら蓄えるのです。
こうした光景は人里離れた田園地帯だけで繰り広げられるわけではありません。
山形や天童など市街地近郊の田んぼでも車窓から間近に目にすることができます。
ただ雪が多いと、「白」と「白」ですから、目を凝らさないと見つけるのは大変ですが。

以前、白鳥の生態に詳しい野鳥愛好家にいろいろ説明してもらったことがあります。
その中で、今も鮮明に記憶しているのが求愛行動。
自分の伴侶を求めて動き回り、2羽の気持ちがぴったり合った時にとるポーズがあります。
互いの首と胴をぴったりつけるのです。
そうするとそこにはハートの形が。
もっとも実際現地で観察すると、白鳥たちは動いているのでなかなかきちんとしたものを見るのは容易でありません。
しかし写真に撮れば本当に見事なハートに。
つがいの愛の深さがしっかり感じ取れ、織り成す自然の造形美に感動しきりです。

白鳥