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2017年10月~11月 辻蕎麦便り

神無月。
「錦秋の候」という言葉がぴったりの季節ですが、今年に限って言えば、それはどこの世界の話といった感じです。
「秋晴れ」とか「秋天」などと表現できる爽やかな天候はいったい何日あっただろうか。
朝に晴れていても、昼過ぎには厚い雲が覆ったり、ややもするとぽつりぽつりと歓迎しないものが落ちてきたりと、とにかく1日中澄み切った青空という記憶がほとんどありません。
もっともこれは山形だけのことではないようですが、さすがに鬱陶しくなってきます。

 自然の中にも“異変”が。
ささやかな菜園でキャベツなどを育てていますが、昨年までは追っても追っても飛び交う蝶に悩まされてきました。
なんせ葉の裏に産み付けられた卵が青虫になり、ようやく大きくなりかけている葉を次から次と食い荒らすのですから。
菜園を手掛ける前までは、「おっ、蝶が舞っている」などと優雅な光景に映ったのですが、いまや憎っくき仇でしかありません。
その憎っくき仇の姿がこの秋はほとんど見かけないのです。
本当は嬉しいはずなのですが、あまりに少ないと何か異変が起きているのではないかと心配になるほどです。
どうなっているんでしょうね。

 窓越しに冷たい雨がそぼ降るのを眺めていて、「えっ、何これ」と一瞬わが目を疑いました。
4月末に園芸店でグリーンカーテンに最適という謳い文句に惹かれ、うかつにも栽培知識ゼロながらパッションフルーツの苗2本を購入。
大型のプランターに肥料をどっさりやって植え、2階の窓との間にネットを渡しました。

 その後、これは熱帯だか亜熱帯の植物で、果たして雪国山形で育つのか。
ハウスなどもないし冬はどうするの。
しかも簡単に受粉しないし、受粉しても熟して食べられるようになるのは容易でないことも分かりました。
どうしてこんなものに手を出したのかと後悔しましたが、いろいろ考えても仕方がない。
最後は、グリーンカーテンをひと夏楽しめばいいではないかと割り切りました。
やはり花は咲けども受粉せず。
それでも2階まで葉を繁らせグリーンカーテンとしては立派に役目を果たしてくれました。
秋になり気温が下がり始めたころに再び花が咲き始め、ある日、蔓の途中に直径5㌢ほどの艶やかな緑の球形が下がっているのが目に入りました。
その1個が1カ月ほどぶら下がったままだったのが、なんと最低気温がひとケタになった今月中旬に2個目が誕生していたのです。
熱い地方の果物が気温ひとケタの中で実っているというのが全くピンときません。
そろそろ蔓を切り詰め、小さな鉢に植え替えて家の中に入れなければと思っていたのに。
しかし冷たい雨の中で揺れる小さな緑の球形を目にするといじらしくなり、なかなか蔓をばっさりという気になれません。
日一日と気温は下がっているのですが。

 今年も新蕎麦本番の季節を迎えました。
辻蕎麦の工房には、蕎麦粉をかき混ぜるときの馥郁たる香りが漂っています。
お客様には申し訳ありませんが蕎麦の香りだけは、打ち手は鼻で、お客さんは噛みしめた後に口腔から感じていただくしかありません。
それぞれの蕎麦粉の良さを最大限引き出すよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。

2017年5月 辻蕎麦便り

 皐月。

 桜に続いて咲き乱れていたサクランボ、リンゴ、ブドウ、ラフランス、モモといった果樹の花々も大型連休とともに去っていきました。
代わって萌黄色の季節が訪れ、疲れた目を癒してくれるよう優しい緑が木々を覆うようになっています。
月山をはじめ遠くに見える朝日連峰の山並みは依然として真っ白な頂を青空にくっきりと浮かばせていますが、その下の山々は日々色合いを変えています。
幼子が少年少女に育つように。
黄色味が次第に薄れ緑の色合いが濃くなっていきます。
山形や天童周辺では、晩春から初夏にかけてのこの時期はまさに万物が息吹いている感じです。

 そんな中で、近郊の田んぼでは田植えが始まりました。
まだスタートしたばかりなので、大半の田んぼはただ水を入れただけの状態になっています。
高いところから眺めるとこれが実に美しい。
山形盆地に巨大な湖が出現したのではないかと錯覚するほどです。
東西10数㌔、南北40数㌔のこの盆地はもともと湖だったと聞いたことがあります。
面積は琵琶湖の4分の3近くですからその広大さは想像がつくでしょう。
天童の北の方にある村山市の狭隘なところで最上川がせき止められていたためだったとか。
ここからは伝説で、有名なお坊さんがそこを切り開き広大な用地を生み出したということです。
多分大地震による地殻変動で、せき止めていた山が崩れ、水が流れ出したというのが真相のような気がします。
学術的には調査されているのでしょう。
ただロマンのため、実際どういうことだったのかを調べるという野暮なことはやめました。
面白いことに、地名に巨大湖の名残があります。
東の山すそに「東根」。
サクランボで有名な東根市です。
西のちょっと小高くなっているところに寒河江市の「西根」があります。
また東根市と村山市の境の山の際には、荷渡し地蔵が祀られています。
水とは全く関係ないようなところで、巨大湖の伝説を知るまではなんでこんなところにあるのだろうと不思議に思っていました。
航行の安全を祈るために祀られたのでしょうね。
ビルや人家が立ち並ぶ現在の光景を目にしていると、あらがいようのない大自然の威力やここまで築き上げてきた人間の歴史の素晴らしさなど想いは果てしなく広がっていきます。

 この時期はなんといっても山菜。
産直施設などには、ワラビ、コゴミ、ウド、コシアブラ、タラの芽、木の芽などが連日運ばれてきます。
中にはこれ何という名前なの、どうやって食べるのといった日ごろあまりお目にかかれないものもあります。
どれも山野からの“直行品”。
味や香りは?言うまでもありません。