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粒子線治療の現状と将来

山形大学医学部附属病院 病院長 根本建二氏
山形大学医学部付属病院
病院長  根本 建二
(ねもと・けんじ)
昭和63年3月 東北大学医学部大学院 卒業
平成28年4月 山形大学医学部附属病院 病院長

(所属学会等)
日本放射線腫瘍学会
日本医学放射線学会
日本食道学会
米国放射線腫瘍学会(ASTRO)
日本癌治療学会
日本頭頚部腫瘍学会
日本乳癌学会


 最近、放射線治療の一種である“粒子線治療”が注目されています。山形大学でも、重粒子線治療の装置導入計画を進めており、今回は、がんの粒子線治療についてご紹介いたします。

がんの本質は“DNA(遺伝子)”の異常
 がんは国民病と言われるほど日本では増えており、年間で約80万人がかかり、約40万人が亡くなっています。生涯で男性の約3分の2、女性の約2分の1ががんにかかる時代で、がんによる死亡者数も非常に増えています。
 がんは年齢と非常に強い相関関係があり、がんのなりやすさは年齢の二乗に比例すると言われています。がんにかかる人が増えているのは、高齢化に伴うものということです。
 がんはいったいどのような病気なのか。それは“DNA(遺伝子)”の病気です。DNAが傷ついて異常細胞の増殖が止まらなくなってしまう状態が、がん(悪性新生物)です。

痛みや身体的な負担が軽い“放射線治療”
 いま、がん治療では、「手術」、抗がん剤を使う「化学療法」、そして「放射線治療」が3本柱として確立されています。
 この中で放射線治療は、臓器を残して治療でき、痛みや身体的な負担が軽いという特徴があります。今後、高齢化に伴うがん患者さんの増加が懸念されますが、高齢のため、あるいは体力がないために手術ができない患者さんが増えることは間違いありません。放射線治療はそうした方々に向いている治療法で、急速に需要が増えていくだろうと考えています。

各種放射線の生体内における線量分布・日本における疾患別死亡率の推移

体の深い所で威力を発揮する“粒子線”
 放射線治療の中で、一般的に広く普及しているのがエックス線を使う治療です。エックス線は体の表面近くでそのエネルギーが最大となり、だんだん弱まりながら体を通り抜けます。このため、正常な細胞にも相当量の放射線が当たってしまい、副作用の問題で十分な治療ができません。
 こうしたエックス線治療の限界を超えるために注目されているのが“粒子線治療”です。粒子線は体の表面では弱く、一定の深さで爆発的に大きなエネルギーを放出するピークを持っているのが特徴で、深い所にあるがんのDNAを効率よく壊すことができます。ピーク後は一気に弱まりますので、体へのダメージは少なくて済みます。

 副作用が少なく破壊力が強い“重粒子線”
 次に粒子線治療に関して、陽子線と重粒子線を使った治療についてお話しします。
 まず、“陽子”というのは水素の原子核そのもので、これを光速の70%程度まで加速しがんのDNAに当てるという治療法です。がん周辺の正常な細胞に当たる量が極めて少なく、放射線による副作用を減らし、がんのDNAだけを壊すことができます。ただし効果は、エックス線とほぼ同じです。陽子線だから治りも良いということではありません。正確に当てられるが威力はあまり変わらないということです。
 “重粒子”は陽子より重い粒子で、日本で重粒子といった場合は炭素の原子核を指します。
 陽子線と同様、正確に当てられることから放射線による副作用が少なく、加えて、破壊力が非常に強いのが特徴です。エックス線や陽子線では効かないがんにも効きますので、治しづらい抵抗性のがんの克服に有効ではないかと期待されています。また、早期の肺がんなら1回の照射、肝がんであれば2回の照射と短期で治療できることも特徴です。

建設、維持に多額の費用、広域での利用が必要
 重粒子線治療には非常に大きな装置が必要です。陽子を加速する装置は数十メートルくらいの大きさですが、重粒子線加速器は、サッカーグラウンド1個分くらいの規模になります。当然、動かすためには電力も大量に消費します。
 そうしたことから、粒子線治療は、広い地域からたくさんの患者さんに来てもらわないと立ち行かなくなってしまいます。
 しかし、現在稼働している粒子線治療施設の多くは、各県内の方が患者さんの約半数を占めており、「居住地域に関わらず等しくがんの状態に応じた治療が受けられる」という法律があるにもかかわらず、実際は近隣の人しか治療に来ていないのが実情です。
 特に東北地方は人口密度が低い、土地は広いといった特徴がありますので、山形大学でもこれを何とかしなくてはいけないと考え、いまネットワークづくりを進めています。まず、どこからでも治療の相談ができる体制をつくり、粒子線治療を受けたい人がきちんと受けられるようにしたいと考え、東北の多くの病院から賛同を得て、連携先は64施設まで増えました。
 また、各病院の間でお互いに電子カルテを見られる体制ができています。各病院で画面を見ながら「この患者さんは粒子線治療の方がいいのではないか」といった相談が簡単にできるように、環境整備に努めているところです。

東北地域は重粒子線がん治療の空白地帯

 “保険が適用されない”ことも大きな課題
 粒子線治療は、医療費が高額となることも大きな課題です。陽子線治療や重粒子線治療は健康保険が適用されない“先進医療”に位置付けられており、一般的な事例では陽子線治療で約280万円、重粒子線治療では約310万円が全額自己負担になります。
 そのため、先進医療を扱う保険が多々売り出されています。医療保険やがん保険に「先進医療費を2、000万円まで出します」といった先進医療特約を付けるもので、医療保険の目玉商品になってきています。
 平成28年4月より、陽子線が小児がんに対して、重粒子線が骨軟部腫瘍に対して健康保険の対象となり、患者さんの自己負担額は数十分の一になりました。今後、さらに保険適用の範囲が広がっていくことが期待されます。みんなが使える治療ということを考えると、やはり将来的に健康保険を適用していくべきだと思います。

おわりに
 山形大学が計画している重粒子線がん治療施設は、省エネ、省スペースを実現した最新式の施設です。大学病院の放射線部に隣接して建設する予定で、附属病院と直接往来できる世界初の総合病院接続型であることが特徴。非常に大掛かりな施設で、設置に3年から4年かかりますが、平成31年には何とか一人目の患者さんを治療したいと考え、準備を進めています。
 皆さまのご理解・ご協力をお願いいたします。

【荘内銀行情報誌『凛』49 2016夏号 より転載】

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