荘内日報 日曜閑話 2003年6月22日(日)
くれないの記
渡部 俊三 (山形大名誉教授、論説委員)
 日本では紅花の花弁から採れる紅や、黄色の色素にさまざま薬効があると昔から言い伝えられてきた。しかし、種子から採れる油の薬効についてはあまり指摘されてこなかった。

 それに比べ、古代ローマやインドでは、花弁の薬効よりも油の薬効についての言い伝えや記述が残されている。古代ローマの「薬物誌」(一世紀後半)には、紅花の種子を砕き、熱湯を注ぎ、絞った油を緩下剤として使うことが記載されている。

 古代インドでは去痰、排尿、虫刺され、皮膚病、リウマチの治療に紅花油が使われていたという。一方、花弁は煎じてはしかや小児の皮膚病に用いたとだけ記されている。

 日本が最も影響を受けた中国では、紅花の花器を酒に浸して飲むことが「金貫要略」(220年)に書かれており、紅花は「婦人疾患、更年期障害、冷え症、打撲、諸出血、腫瘍、口内炎などに効果がある」と書かれているという。花弁中の赤色の色素(カルサミン)は水溶性でなかったので、酒に浸して溶出させ利用していたのであろう。

 その後に書くれた「開宝本草」(974年)や「本草綱目」(1590年)などの植物関係の中国古書には「紅花の花器は悪皿を除き、造血をうながすので、産後の血行不良、血の道症などに用いる」と記述がある。さらに「本草綱目」には紅花はあせもや唇の荒れを防ぐとも書かれている。

 これらの海外(主として中国)からの医薬情報をもとに、日本では「和漢三才図会」(1713年)に、紅花が次のよう紹介されている。「花辛甘苦温、肝経皿分の薬、心に入り、常帰を佐とし、新皿を生ず。多用すれば留皿を破り血を行にし、少用すれば血を養う」。

 さらに戦後に改訂された「日本薬用植物辞典」には「昔は婦人血の道に用い、血中のコレステロールを減らし、冠動脈硬化を防ぐ。強神湯とし温服、播州辰野の中風薬、狭心症、脳軟化症、脳卒中、後遺症、高血圧症などに応用。子宮実質炎、卵巣炎など細菌感染による炎症性疾患に適応。心動脈硬化症の予防に種子の熟した頭花をつき、熱湯を注いで飲む。切り傷、打身には花弁を焼酎につけたものが妙薬」などと、紅花の薬用を詳しく記載している。

 さて、以上はいわば昭和時代までの日本での紅花に関する薬効認識の概略をあげてみたのだが、平成年代に入ると、医薬研究が新分野の研究開発に向けられ、紅花研究も以前とは違った成果が報告されるようになった。すなわち「紅花の鎮痛、炎症抑制作用の研究」(山形県衛生研究所)、「紅花が体内フリーラジカルの消去に及ぼす影響」(生物ラジカル研究所)などである。こうした取り組みが刺激になってか、巷でも紅花の乾燥花が花粉症を和らげたとか、紅花もやしが身体に良いとか、紅花茶を飲むと母乳の出が良くなったなどの体験談が聞かれるようになった。

 今後、こうした研究を推進してもらうためには紅花栽培の増大が望ましいのだが、関東地方などではヒマワリや紅花、菜種などの油料作物を休耕地に栽培し、資源循環を図ろうとするエコプロジェクトが進められている。山形県もそうした角度から紅花栽を奨励する必要があるのではないかと考えられる。


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